武士の序列

武士社会

江戸時代についての多数の著書がある山本博文氏は「現代企業も官僚機構も、全て徳川政府から始まった!」という副題で武士社会についての本を出しています。

山本博文、2022『江戸の組織人 現代企業も官僚機構も、全て徳川政府から始まった!』朝日新聞出版 

武士と武士以外

山本氏は、江戸時代の身分には士農工商ではなく実際には大きく分けて武士と武士以外のふたつの身分しかなかったとしています。

それぞれには身分内身分というべき階層差がありました。

武士以外の農民や商人は土地や家などの資産を持つ階層とそれらを借りて生計を立てている階層とに分けることができます。

彼らは耕地や家屋敷の売買が認められるようなったため身分が固定化されていませんでした。

しかし、武士についての身分内身分には固定を望む風潮がみられました。

上士・平士・下士

武士の身分階層は複雑ですが、大まかに上士、平士、下士の三つの身分に分けることができます。

幕府も藩もこの三つの身分を基本にして組織作り上げていました。

上士の多くは知行制度が改革されるまでは領地を持っていました。

知行は領地から年貢を取る権利で領地の農民を使役することもできました。

領地は知行といわれ石高で表示されます。

平士は知行を取る武士のうち上士以外の者をいいます。

身分の高低は石高で示されます。

石高による身分は藩の規模により異なりました。

同じ家老でも大藩なら1万石、小藩だと5百石だったりします。

おおよそ100石以上、小藩なら50石くらいから上は平士とされました。

下士には知行がありません。

下士には藩や幕府の蔵から俵に入った米を給料として米を支給されます。

身分は30俵5人扶持などの年収で示されました。

武士の身分の違い

武士の身分の違いは家臣の持ち方、服装、態度、言葉、婚姻関係など生活全てに及んでいました。

山本氏は上士と平士の身分差はそれほど大きくなかったとしています。

ところが、平士と下士の間には大きな溝があったようです。

婚姻でいえば、上士や平士は決して下士と縁組することはありません。

下士は下士同士、または農民、町人と縁組することもありました。

下士の最下層である足軽は往来で上士に行きあった時、たとえ雨であっても下駄を脱いで平伏しなければならなかったそうです。

武士の身分の違いは厳しく周囲にわかる形で維持されていたのです。

直臣と陪臣

直臣とは直接の家臣のことです。

将軍の直臣は次の3種類に分かれます。

  • 大名ー1万石以上の武士
  • 旗本ー1万石未満100石以上でお目見え(将軍に拝謁)できる武士
  • 御家人ーおおよそ知行100石未満でお目見えできない武士

陪臣とは家来に従っている家来のことです。

たとえ家老が1万石以上の知行を持っていても将軍から見れば家来の家来なので陪臣です。

直臣同士である大名と3千石以上の旗本は縁組を結ぶこともあったようです。

旗本の家格

旗本には家格がありました。

旗本の家格のうちで最もプライドを持ち優遇されたのは「両番家筋」の者でそれに次ぐのが「大番家筋」でした。

両番とは将軍の身辺を警護する軍事組織である書院番と小姓組番です。

この両番に配属される家を「両番家筋」といいました。

「大番家筋」は軍事組織の中核で騎馬の格です。

その下に馬に乗れない徒士(かち)格の軍事組織小十人組(五番方)、さらに役職に就かず番に配属されない小普請がいました。

江戸時代の旗本社会は同じ家筋であれば家禄に2、3倍の差があっても親しく交際しましたが、家筋が違うとほとんど身分が違うような扱いを受けたとしています。

差別意識と家格制維持

山本氏は家格制の下で差別意識は次第に肥大化していったとしています。

福沢諭吉の『旧藩情』においても武士の階層の違いによるものは絶対的であったと述べられています。

上士と下士が血縁関係を結ぶことはなく、その結果、狭い範囲で婚姻を結ぶこととなり、上士は上士同士、下士は下士同士で親族関係となっている状況だったとしています(福澤1970: 266-7)。

嫁・養子選択に関する研究をまとめている村越一哲氏によると、嫁や養子は同程度の身分階層で禄高相応の家臣間でやり取りされていることがあきらかにされてはいるが、それらは一部の藩を例にとった研究であり、武士社会全体の社会移動についての結論を得るだけの研究成果は得られていないとしています(村越 2010: 17)。 

武士の婚姻に関する資料が少ないために研究成果として確実とはいえないのでしょうが、同じ階層同士の婚姻は家格制維持のための大きな要素だったのは確かなようです。

したがって、同程度の家格が姻戚関係を結ぶ条件になっており、養子縁組は家格操作の手段になっていたのものと考えられます。

福澤諭吉、1970、「旧藩情」『福澤諭吉全集 第7巻』岩波書店、265-80 

 村越一哲、2010、「徳川武士の人口再生産研究――課題と仮設の提示」『文化情報学 駿河台大学文化情報学部紀要』17(2):13-29

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